ICTSC2026 一次予選 問題解説: 問1

問1

概要

ルーターA (以下、RTAと呼ぶ)においてIP SLA + Object Trackingを用いた経路の自動フェイルオーバーを構成しているが、意図した通りに動作しない。以下の情報をもとに、原因を特定せよ。

要件(設計仕様)

本構成が満たすべき要件は次の3点である。

  1. 通常時:PC1→PC2間の通信は、RTA→RTB1→RTCの経路(主経路)を使用する。
  2. 障害時:RTAは自動的にRTA→RTB2→RTCの経路(副経路)へ切り替え、PC1→PC2間の通信を継続する。
  3. 監視の継続性:上記の障害検知・経路切替の仕組みは設定後恒久的に有効であり、一定時間で停止してはならない。

環境・制約

  • 機器:Cisco Router (IOS)
  • RTAのみ設定変更が可能
  • RTB1 / RTB2 / RTC は既に正常に設定済み
  • 本環境はstatic route onlyの環境である

RTAの現在のconfig(抜粋)

interface GigabitEthernet0/1
 ip address 10.0.12.1 255.255.255.252
!
interface GigabitEthernet0/2
 ip address 10.0.13.1 255.255.255.252
!
ip sla 10
 icmp-echo 10.0.14.1 source-interface GigabitEthernet0/1
 frequency 5
ip sla schedule 10 start-time now
!
track 10 ip sla 10 reachability
!
ip route 192.168.20.0 255.255.255.0 10.0.12.2 track 1
ip route 192.168.20.0 255.255.255.0 10.0.13.2 210
RTA# show track 1
% Tracking object 1 not found

RTA# show ip route 192.168.20.0
Routing entry for 192.168.20.0/24
  Known via "static", distance 1, metric 0
  Routing Descriptor Blocks:
  * 10.0.12.2
      Route metric is 0, traffic share count is 1

RTA# show ip sla configuration 10
IP SLAs Infrastructure Engine-II
Entry number: 10
Type of operation: icmp-echo
Target address: 10.0.14.1
Life: 3600
Entry Ageout: never

現象

RTB1のG0/1をdownさせると、PC1→PC2間のpingは無応答となり、時間が経過しても復旧しない。このときRTA上で show ip route 192.168.20.0 を確認すると、ネクストホップは10.0.12.2(RTB1)のままで変化していない。

設問

提示したシナリオを前提として、以下の1〜5のうち正しいものをすべて選べ。

選択肢(複数選択)

  1. 現状の断絶が復旧しない直接の原因は、ip route文が参照するtrack 1が未定義であることである。これは以下のように track 番号を実在するtrack 10に合わせることで解消する。
no ip route 192.168.20.0 255.255.255.0 10.0.12.2 track 1
ip route 192.168.20.0 255.255.255.0 10.0.12.2 track 10
  1. ip sla 10のicmp-echoターゲット(10.0.14.1)への到達性を確保するには、以下のスタティックルートを追加する必要がある。
ip route 10.0.14.0 255.255.255.252 10.0.12.2
  1. ip sla schedule 10はlife foreverを指定しなくても、start-time nowのみでicmp-echoオペレーションは無期限に継続するため、要件3を満たすために追加のコマンドは不要である。

  2. 主経路のスタティックルートからtrack指定を外し、以下のように無条件のルートに変更することで、要件2(障害発生時の自動切替)をより安定して実現できる。

ip route 192.168.20.0 255.255.255.0 10.0.12.2
  1. track 10 ip sla 10 reachabilityを以下のように変更しても、要件2で求められるRTB1配下(下流)のリンク障害検知は実現できないため、この変更は解決策にならない。
track 10 interface GigabitEthernet0/1 line-protocol

正解

1, 2, 5

解説

正解:①②⑤

① 正しい show track 1がnot foundであり、Cisco IOSでは未定義のtrackオブジェクトは常にUP扱いされる。よってRTB1のG0/1がdownしても主経路ルートは除去されない。提示したコマンドで既にip sla 10と結びついているtrack 10に統一すれば、track 10の実際の状態がルートに反映されるようになる。

② 正しい show ip routeにもshow ip sla configurationにも10.0.14.0/30宛の経路が存在せず、icmp-echoの宛先(10.0.14.1)へパケットを送る手段がない。このスタティックルートが無いままでは、①を直してもtrack 10は常時down判定となり、正常時(要件1)にも副経路へ固定されてしまう。ネクストホップは必ず10.0.12.2(RTB1向け)を指定する必要がある。10.0.13.2(RTB2)を指定すると、RTB1のG0/1がdownしていてもRTB2経由で10.0.14.1に到達できてしまい、SLAが誤ってUP判定を出しかねない。

③ 誤り life未指定時のデフォルトは3600秒であり、無期限には継続しない。show ip sla configuration 10にLife: 3600とある通り、1時間後にオペレーションが停止し要件3を満たさない。正しくはip sla schedule 10 life forever start-time nowが必要。

④ 誤り track指定を外すと常時UP扱いの無条件ルートになり、要件2自体が成立しなくなる。自動切替機能が失われるため誤り。

⑤ 正しい line-protocolでtrackできるのはRTA自身のインターフェースの物理/データリンク状態のみ。RTB1配下(RTB1-RTC間)のリンク障害はRTAのG0/1のline-protocol状態には現れない(RTA-RTB1間のリンク自体は生きているため)。要件2を満たせず、解決策にならない。